野球盤E-1型
昭和38年(1963)推定/エポック社
発売年に関する考察
本機は昭和35年(1960)発売とされるエポック社野球盤E型の、いわばバージョン違い。
本家E型との決定的な相違点は、成型プラスチック製筐体の色(E型:薄緑/本機:黄色)を除くと、その盤面デザイン。
E型で盤面に描かれている選手イラストがエポック社お家芸とも言うべき俯瞰視点からの圧縮法を用いた、どこか牧歌的作風なものであるのに対し、本機におけるそれは、実在のプロ野球スター選手たちを極めて写実的に描いたもの。
これまでの圧縮法を駆使したイラストレーター(たち?)の腕前も素晴らしかったが、本機で新たに採用された(と思われる)イラストレーター(漫画家?劇画家?)の画力には圧倒される。
長嶋をはじめ、王、金田、村山、稲尾など、子供時代の筆者がテレビの野球中継に釘付けになっていた当時のセ・パ両リーグの錚々たるスター選手たちがグラウンドを所狭しと駆け回る様子は、見ているだけで圧巻だ。
この素晴らしい選手イラストは下記動画でじっくりご覧いただきたい。
本機の発売はエポック社公式サイトによると、E型と同じく昭和35年(1960)となっているが、はなはだ僭越ながら、それは少々疑わしい。
センターに描かれているのは柴田勲選手だが、彼が巨人軍に入団したのが昭和36年(1961)10月であるから、その前年に発売されたとする本機に、すでに巨人のユニフォーム姿で描かれているのは説明がつかない。
さらにいえば、柴田選手が投手から野手に転向し、センターに定着したのが昭和38年(1963)5月であり、同年初めてオールスターゲームに出場している(その後1968まで継続選出・出場)。
加えて指摘すると、3塁側ファウルゾーンで投球練習をしている西鉄の大エース・稲尾和久投手のオールスター出場は、昭和38年(1963)の次は3年後の昭和41年(1966)であり、それが最後。
そして、国鉄スワローズのユニフォームを着用してピッチャーズマウンドでひときわ大きく描かれている金田正一投手は、昭和39年(1964)12月には国鉄を退団、巨人に移籍しているので、稲尾投手最後のオールスター出場である昭和41年(1966)の線は消える。
以上のことから、本機の発売は昭和38年(1963)秋以降とするのが妥当かと思われる。
あるいは、同年末のクリスマス商戦に投入されていたかもしれない。
そう考えるとなんとなく辻褄が合いそうだ。
新品未使用
他機種の稿でも幾度となく触れている通り、筆者が所有するアナログゲームはここ20年以上、トランクルームにしまいっ放しにしていた。
中にはインターネットオークションで落札したものの、入手した後、開封すらせずにトランクルーム直行という機種も少なからずある。
本機もそのうちの1台。
2022年3月、他の数点と共にトランクルームから引き揚げてきたが、何せ20年以上も前のことで、落札したことすらすっかり失念していた。
当然のことながら外箱はボロボロで、備品が揃っていさえすれば上々という気持ちで外箱を開けてビックリ玉手箱!
盤面がやけにピッカピカだなと思ったのも当然、中身はアッと驚く新品未使用品だった。
その証拠に成型プラスチックの選手人形が切り離されてはいない、こんな光景ははじめてお目にかかった。
(さすがにここに至って切り離すのは忍びない、よって本稿における写真及び動画では、本家E型の選手人形諸君に友情出演していただいた)
厳正なルールブック
未使用の選手人形以上に驚かされたのが詳細なルールが記された取扱説明書。
あそび方はもちろん、アウト/セーフの判定方法が明確に、そして事細かに定められている。
この厳正な野球盤ルールは掲載に十分値しよう。
かわいらしい図のみをスキャンし、ルール本文は読みやすさを考慮して画像ではなくテキストで紹介しよう。
特に、一度穴に入った球がとび出した場合の判定に関する細かな言及は、あまたの乱闘(ケンカ)抑止に大きく寄与したであろうし、それは遊びといえども「ルールを遵守」を徹底せしめるという教育的側面からも、大いに称賛されて然るべきだろう。
諸兄も今後もし実際に野球盤を利用する機会があれば、以下の記述をぜひ参考になさっていただきたい。
しっかりとしたルールに支配された、明るく楽しく、もちろんいい齢こいて大乱闘、などということのない健全なゲーム進行のために。
■投球
投球は、守備者の手もとにある引き金を引き(第1図)、ピッチャーの位置にある投球装置(第2図)に、ボールを入れて引き金をはなします。
ボールは打ち出されて本塁に向かいます。
■変化球の出し方
変化球を出すには、投球レバーの左側にある制球レバーを直球、シュート、カーブの目盛に合わせると盤の裏に取付けられたマグネットの力で球の進路を変えることが出来ます。(第3図参照)
(F型にはシュート、カーブの目盛しかついていませんが直球を出すにはレバーを一杯に押し又は引きます)。
■打撃
攻撃を行う競技者は、第4図のように、バットを後へ引いて、球を待ちます。
球がくればバットを指からはなして打ちます。
打撃の時は、よく球のコースを見分けてください。
バットの引き方の大小は自由ですが、キャッチャーボックスにかかるような、浅い引き方はいけません。
■安打(ヒット)
(イ) フェアボール(この競技の場合、バットから直接ファウル地域に入らない球)が安打の穴(本塁打・三塁打・二塁打)に入った場合はそれぞれの安打となります。(第5図参照)
(ロ) 球が安打の穴又はアウトの穴に入らず、アウトゾーン(黄色のアウト地域)の外に停止した場合、これを単打とします。
(このため盤をできるだけ水平におく必要があります。)(第6図参照)
■進塁
(イ) ルールをなるべく簡単にするため、単打の場合は打者及び塁上の走者はそえぞれ1コ塁づつ、二塁打(三塁打・本塁打)の倍も、打者及び塁上の走者はそれぞれ2コ塁づつ(3コ塁づつ、4コ塁づつ)進ませることにします。
(ロ) フォアボールは、実際の野球のルールどおり、打者の一塁への進塁を許します。
■アウト
(イ) 野手の穴及びその周囲の円内に停止した球は、野手の捕殺又は刺殺が成功したものと見なし、アウトとする。(第7図参照)
(ロ) 外野のすみ及びバッターボックスの左右にあるアウトの穴に入った球もアウトとする。
(ハ) ファウルボール(バットから直接ファウル地域に入った球)が本塁の左右にあるファウルアウト穴に入った場合は、ファウルフライをキャチャー又は他の野手が捕球したものと見なして、アウトにする。
(ニ) 打者が三振した場合は勿論アウトです。
(ホ) 実際の野球のルール通り、3アウトをもって攻守を交代します。
註1: アウトの穴に一度入った球が飛び出した場合、その球が直後に留まった所で打撃の効果を決めます。
たとえば、サードの穴に一度入った球がとび出して、二塁打の穴に入った場合は、二塁打となります。
又、セカンドの穴に入った球がとび出して、ライトの穴に入った場合はアウトになります。
註2: 上の規定は、安打の穴に入った球にも適用されます。
たとえば三塁打の穴に一度入った球がとび出して二塁打の穴に入った場合は二塁打となり、アウトの穴に入った場合はアウトになります。
註3: 但し、ファウルアウトの穴からとび出した場合は、他のいずれの場所で止まっても、ファウルとなり、アウトにはなりません。
-以上の文章・イラストともに「エポック社の野球盤 あそび方」より転載-
一度穴に入ってとび出た打球の判定をどう下すのか、
また、穴に入らないままウロウロする打球はセーフかアウトか、
個人的にも長年の疑問であったのだが、ここにようやく解決、スッキリした。