ビッグボーリングゲーム

発売年不明/辰巳屋

ビッグボーリングゲーム(辰巳屋) 全景

最小最古?のボウリングゲーム

レーン全長わずか42.5cmと、筆者所有のプラスチック製ボウリングゲームの中では最小サイズ。
それにもかかわらず「ビッグボーリングゲーム」と命名するとは、後から考えるとずいぶんと大きく出たものだと苦笑を禁じ得ない。

外箱におなじみのSTマークがないことから、昭和46年(1971)より前の製造・発売であることは疑いの余地がない。
投球直後とはとても思えないポーズを決める少年イラストのタッチから、恐らく昭和40年代前半に発売されたものと推察できる。

ビッグボーリングゲーム(辰巳屋)外箱

メーカーについても謎だ。
外箱の「良い子の友」と泣かせるキャッチフレーズの左横、王冠を被ったタツノオトシゴのイラストの下に

「TATSUMIYA TOYS」

とメーカー名が記されている。

ビッグボーリングゲーム(辰巳屋) 色とりどりのボウリングピンを収納する円形プラスチック箱

また、白・黄・青・緑・赤・ピンクと色とりどりのピンが収納されている円形プラスチックの表面には

「卓上ボウリングセット 発売元 辰巳屋」

と印刷されたシールが貼付されている。

失礼ながらまったく聞き覚えがない社名ゆえ早速ネット検索すると、大阪に本社をもつ同名の玩具メーカーが存在することを発見。

同社Webサイト中会社沿革の項

「昭和38年12月 辰巳商店から(株)辰巳屋に改称、株式会社に改組」

という記述がみられることから、もし同社が本機の製造・発売元だとすれば、社名変更した昭和38年(1963)から昭和40年代前半に製造・発売されたものという推測が成り立つ。



ビッグボーリングゲーム(辰巳屋)全景②

早すぎた誕生

日本国内にボウリング場ができはじめたのは昭和30年(1955)ころからだが、その後しばらくは一部の愛好家や流行を先取りする若者をのぞけば、広く一般に普及することはなかった。

ところが昭和46年(1971)、それこそ降って湧いたようにわが国に突然、嵐のようなボウリングブームが起こり、全国各地にボウリング場建設ラッシュが続いた。
アナログゲームの世界も同様で、この年だけで多くの玩具メーカーから20種類を超えるボウリングゲームが相次いで発売された。

そう考えると、本機の誕生はいささか早すぎた、と言えなくもない。

もし本機がボウリングブーム前夜、日本国中が大阪万博に湧いた昭和45年(1970)に発売されていれば、ボウリングゲームの先駆けとして大いに注目を集め、たいへん失礼ながら在阪のいち中小玩具メーカーが、エポック社や野村トーイと伍していたかも知れない。

実際、ブーム真っただ中の昭和46年(1971)に野村トーイから発売され、廉価版ボウリングゲームとして人気を集めた「ファミリーボーリング」(筆者も同機を母親に買ってもらった)において、

■赤一色のプラスティック製レーン
■シンプルな三角定規式ピンセッティングシステム
■坂道式オートリターンボールシステム
(本機はガーター搭載だが、ファミリーボーリングではレーン下に坂道が設けられている)

以上の点がまるで本機を踏襲しているかのように感じられる。

ちなみにこの株式会社辰巳屋は、幅広く玩具の製造販売を手掛けるなど今日でも大いに健在であることを念のため記しておく。



ビッグボーリングゲーム(辰巳屋)レーン上のピンの位置は自由自在

移動式ピンセッター

本機は国産ボウリングゲームとしては最初期の製品であるが、投球がほとんどの場合、坂道式ガーターを通じて投球者の手元まで自動的?に戻ってくるなど、ボウリングゲームとして最低限の機能を保持している。

しかし本機で特徴的なのはなんといっても「移動式三角定規ピンセッター」の採用であろう。

本機以降に発売されたボウリングゲームに搭載されたごく一般的な三角定規式ピンセッター(例:ファミリーボーリング)の場合、三角定規の左右にそれぞれ丸い穴が開けられており、それをレーンの左右にある円形の突起にはめ込むことで、ピンは必ず毎回同じ位置にセットされる。

ところが本機にはそのような「穴+突起」がなく、いわばレーン上のどの位置にも自由にピンセッティングが可能だ。

これはひとつには三角定規やレーンに「穴+突起加工」を施す予算(あるいは製造技術)がなかったからと考えられなくもない。

しかし逆に、ピンの立ち位置をプレイヤー自身が自由に設定できるということは、ボウリングゲームとして最古機でありながら、オッソロシイばかりの先進性を備えていたと言えないだろうか?

ビッグボーリングゲーム(辰巳屋)輪ゴム式投球装置

投球装置はこれまたシンプル、というよりここまでくると原始的と言った方が良さそうな、輪ゴムを利用したいわば「弓矢式」であり、プレイヤーの年齢によっては引く力が弱く、破壊力のある投球が難しいかもしれない。

そんな時、ピンを通常より手前にセットすることでボールとピンとの距離が短くなり、幼児への「ハンデ」を設定することが可能になる。



ビッグボーリングゲーム(辰巳屋) レーンを上から見たカット

やはり小さすぎるのが難点

さて実際に遊んでみての感想だが、特にピンが小さいので大人の手では少々扱いづらいというのが率直な感想だ。

特にピンセッティングの際は十分に気をつけないとピンがすぐに倒れてしまう。
また投球装置も輪ゴムを使用しているので今ひとつ安定さを欠く。

結論としては、後年のボウリングブームの波に乗って有名玩具メーカーから一斉に発売された、大人でも楽しめる「堂々たる室内ゲーム」に比べると、サイズ・機能ともに少なからず見劣りする「子供向けオモチャ」の域を出ないと言っても過言ではない。

しかしながら、大ブームが到来する何年も前に、いち早くプラスチック製ボウリングゲームを世に問うた当時の「辰巳屋」の、モノづくりにおける旺盛なフロンティアスピリットは十分、称賛に値しよう。

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