ワンタッチ式ボーリング

発売年不明/発売元不明

ワンタッチ式ボーリング(発売元不明) 全景

木製ボウリングゲームとは驚いた

いやまったく長生きはするものだ。

昭和レトロなアナログゲームの収集を始めて以来、あっという間に四半世紀以上が経過したが、この期に及んでこんな逸品に出会えるとは思わなかった。

その存在すらまったく知らなかった木製のボーリングゲーム。
いろいろと調べてはみたものの、製造年はおろかメーカーすらわからない。

いずれにせよトンデモナク古そうだという事だけは想像に難くない。
恐らくは昭和30年代、遅くとも昭和40年代初頭に作られたものではなかろうか。

思えば昭和33年(1958)にエポック社(及びアポロ社)から発売された、いわゆる初代野球盤も、家具職人の手による木製だった。
ひょっとすると本機はそれらと同時期に誕生した製品かもしれない。

だがそれにしてはレーン左右の側面に堂々とプリントされた「ワンタッチ式ボーリング」の文字が眩しい。
印刷技術に関する知識はないが、使われている書体といい、鮮明な印字といい、見事というよりほかにない。



ワンタッチ式ボーリング(発売元不明)ピンセッティング・投球装置

ワンタッチ式ピンセッティング

見事と言えば度肝を抜かされたのがこの卓抜なピンセッティングシステム。

それぞれのピンの底に仕込まれた計10本ヒモがレーンの下で横長の木板につながれ、投球装置左下の赤いレバーを手前に引くとレーン下のヒモが引っ張られ、寝転がっていたピンが飛び起きるようにして直立するという仕組み。

ワンタッチ式ボーリング(発売元不明)ピンセッティング・投球装置

ただし、レーン下のヒモが緩んでいるとピンがうまく立ち上がらないので、ヒモの結び目を短く結び直すという微調整が求められる。



ワンタッチ式ボーリング(発売元不明) レーンを上から見たカット

温泉旅館の遊戯用?

レーン全長93cm、幅は約20㎝と、ボウリングゲームとしては大型の部類。
木製ということもあってその存在感に圧倒されるが、実際に遊んでみると細かな問題がいつくか噴出する。

まずもって、ピンは前述のようにヒモでつながれているため、当たり前だが倒れてもレーン上から動かす(=取り除く)ことができない。

従って2投目では、1投目で倒れたピンに阻まれ、投げられたボールがコース上に立っているピンに当らないケースが、まま発生する。

またそれを防ぐためか、投球装置には強力なバネが仕込まれているようだが、そのため、投げられたボールは本物のようにレーン上をゴロゴロ転がるというよりは、ピストルから放たれた弾丸の如く、猛スピードでピン目がけて突進する。

ワンタッチ式ボーリング(発売元不明) 投球というより発射装置

こうなるとボウリングというより、むしろ温泉場にある射的ゲームといった趣だ。

しかし、ここで一つの疑問が湧く。

仮にその発売が昭和30年後半か40年代初頭だと仮定すると、本機のようなボウリングゲームに対する需要は当時どれほどあったのだろうか?

同じ木製でも野球盤に関して言うと、エポック社は昭和33年(1959)の初代野球盤発売以降、新たな機能や素材を採用した後継機種をほぼ毎年のように続々発売している。

つまりはそれほど野球ゲームの需要があった、イコール野球が当時すでに国民的人気を集めるプロスポーツだったということが言えよう。

翻ってボウリングついては、そのブーム到来を昭和46年(1971)まで待たねばならず、少なくとも昭和30年代後期~40年代初頭の時点ではさほどの国民的人気を博してはいなかったと考えられる。

そのような状況下で、果たして本機は家庭用ゲーム機として製作・発売されたのであろうか?

もしそうであるなら、少なくとも(途中長いブランクはあったが)25年以上にわたって昭和レトロなボウリングゲームを追い求め続けてきた筆者の目に、これまでどこかの時点で、何らかの形て留まっていても良いはずだ。

と、こまで考えたとき、実に興味深いWebページに行き当たった。 横浜にあるヴィンテージショップの2020年1月のブログに、本機に関する写真と記述が見られる。
(しかも写真中のピンは新品のようにピッカピカじゃあねえかクソ)

そこには

「昭和には温泉や喫茶店に置いてあったそうで」

との一文が添えられている。

もちろん現時点で何ら確証はないが、ひょっとすると、卓球などと同じように、温泉旅館などに遊戯用として設置されていた可能性があると考えられる。
あるいはそれこそ上述の射的のように

「ストライクが出たら大当り~♪」

という煽り文句とともに、1投5円か10円の、何やら少々怪しげな有料「当てもの」ゲームに用いられていた可能性も否定できない。

…だとすると、ヒモのテンションを高めておくことで、ボールが当たってもピンが倒れないのでハズレ、という「ズル」を工作することも十分可能であったろう。

いずれにせよ、どうやら本機は家庭用ゲームとして玩具店などで一般発売されていた可能性は低いように思われる。

だとしたら当時温泉などに金輪際連れて行ってもらうことなどなかった貧乏小売店(それは現在でも変わらないが、苦笑)の子せがれだった筆者が知らなくても当然だ。

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