電動野球ゲーム

昭和47年(1972)/バンダイ

電動野球ゲーム 全景

走者が走る野球ゲーム

玩具メーカーの雄・バンダイ(当時)が満を持して世に問うた野球ゲームの決定版、従来型野球盤とは一線も二線も画す本格的かつ画期的野球ゲームの登場だ。

実は25年前に本機と出会う少し前のこと、山梨県某郡某町にある11LDKの大豪邸に住んでいたというお坊ちゃま出身(ヤな奴だ)で5歳年下の友人から、こんな話を聞かされた。

「子供の頃、塁に出た走者が実際に走る野球ゲームで遊んでいた記憶がある」

その時は

「まさか。あなたの家に住み着いていた小さなおじさんたちが走ってたんじゃあねえのか」

などと一笑に付したが、その世にも珍しい野球ゲーム(野球”盤”と呼ぶにはいささか立体的)というのが本機だ。

本機が発売された当時筆者はすでに中学生で、この手のおもちゃへの関心も薄れていたとはいえ、ネットオークションに出品されるまで、その存在すら知らなかった。
ああ金持ち恐るべし。



電動野球ゲーム バックネット裏から

気分は野球場

全体は52㎝四方、観客席スタンドを含まない両翼は56㎝と堂々たるサイス。

選手人形はヒラメ型ではなくリアルな造形、シフトが敷ける可動式外野手、スコアボードはもちろん、バックネットや内外野スタンドも完備。
バックネット裏から全体を見ると、まるで本物のスタジアムにいるような錯覚さえ覚える。

しかし本機の特色はそれだけではない、あっと驚く機能がある。



電動野球ゲーム 走る走者

苦節13年、バンダイの執念が結実

打撃装置はバックネット裏にあるレバーを右から左に素早く動かすことでバットが回転するという画期的なシステム。

権利関係の問題か、あるいはバンダイの意地か、それまでの一般的なバネによる回転式の打撃装置とは大きく異なる。
また打者ではなく、すでに走者が右バッタボックス横にスタンバイしているのが見える。
打者走者が出塁する前にあらかじめ代走が設定されているのも珍しい。

そしてめでたくヒットが出ると、塁上にいたランナーが「ウィーン」という音とともに、なんと一斉に走り出すではないか。
走者はグラウンド地下に仕込まれたマグネットによって動かされるもので、シングルヒットなら塁1つ分、ツーベースが出れば塁2つ分激走する。

待てよ。

この、
■打者とは別の走者が出塁を待ち構えている。
■出塁した走者が(電動ではないものの)実際に走塁する。
世にも珍奇なシステム、どこかで見たことがあると思ったら…

なんと、昭和34年(1959)に本機と同じバンダイ(当時は万代屋)から発売された野球盤黎明期の隠れた大傑作「ビーシーの野球ゲーム」と同じコンセプトではないか!

同機は「ゴロではなく宙を飛ぶ投球・打球」ととともに「走者が塁間を激走する」という、それまでの野球盤では考えられなかったトンデモナイ機能を有していた。

とはいえ走者が自力で走るはずもなく、走者を乗せた透明円板をレバーでグルグル回すという他愛ないもので、そのせいもあってプレイヤーに複雑な動きが要求されたことで操作が煩雑になり、当時の大衆にに支持されることなくひっそりと野球盤市場という名のグラウンドを去って行った。

それからなんと13年もの歳月を経て、今度こそ正真正銘、足裏に磁石を装着した走者は、地中に埋設された電動マグネットと同期して、グラウンド狭しと走り回るのだ。

13年の長い年月をかけて同社の宿願であった「走者の自動走塁システム」を具現化した玩具トップメーカーの意地と執念と開発力にはつくづく感服するよりほかないが、それにしてもバンダイはなぜここまで「走塁」にこだわったのだろうか?

塁上の選手が疾走する様子は下の動画でご覧いただけるが、20年以上前に制作していた、当サイトの前身となるホームページ「野球盤道場」においては、当時youtubeをはじめとする動画投稿サイトがまだ存在しておらず、動画ではなくパラパラ漫画を掲載していた。

「走者が自動で疾走する」本機の画期的な機能をなんとかして実際に見せたいという思いで制作したこのパラパラ漫画、当時としては涙ぐましい労作だし、昔の名残りを今にとどめておくためにも、恥を忍んでここに紹介しておきたい。

電動野球ゲーム:打球装置

電動野球ゲーム:走者が走る様子

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