ゴールデンスター野球盤

発売年不明/・発売元不明

ゴールデンスター野球盤 全景

世にもまれなる珍盤

いやまったく、長生きはするものだ。

野球盤をはじめとする昭和レトロなアナログゲーム収集を始めて早30年になろうとするが、このたびトンデモナク珍しい野球ゲームを手に入れてしまった。

その名もゴールデンスター野球盤、発売元はゴールデンスター玩具KK。
失礼ながらこれまで聞いたことのないメーカーだし、ネット検索しても現時点では何ら情報は得られない。



ゴールデンスター野球盤の筐体に使われれるペラッペラの素材

(恐らく)塩化ビニール製の筐体

サイズは45cm四方、野球盤としては中型の部類に属しよう。

観客席を模したであろうクリーム色のひな壇スタンドがグラウンドをグルリと取り巻く形状は、その色調も似ている昭和47年(1972)発売のエポック社「野球盤CM型」を彷彿とさせる。
しかし外箱にSTマークが印刷されていない点などから考えても、本機が「野球盤CM型」より先に、少なくとも昭和46年(1971)以前に発売されたであろうことは想像に難くない。

なにより特筆すべきは筐体の素材、合板や後の成型プラスチックに比べてなんとも薄っぺらいの塩化ビニール(と思しき素材)が採用されている。
(したがって見た目よりはるかに軽い)

筆者は塩ビ加工技術に関してはまったくのド素人だが、もし本機の筐体に採用された素材が塩化ビニールであるとしたら、すでに半世紀以上前のわが国のいち製造業者が、1枚の塩化ビニールからこのように凹凸に富んだ立体造形を生み出す高度な加工技術を有していたことに驚きを禁じ得ない。

ゴールデンスター野球盤の盤面にはフエルト張りでMADE IN JAPANの文字

ひょっとしたら海外メーカーからOEM供給か?と思わずいぶかったが、3塁側ファイルゾーンに記された「MADE IN JAPAN」の誇らしげな抜き切り抜き文字に、そんな疑念も一瞬にして吹き飛んでしまった、恐れ入りました。



ゴールデンスター野球盤 2枚のフエルト重ね張りで表現された内外野グラウンド

美しい盤面加工

前項でも少し触れたが、盤面はこれまた珍しい、他には類を見ないフエルト2枚重ね張り構造。
最初に土色を表す薄茶色のフエルトをグラウンド前面に敷き詰め、その上に芝生をイメージしたフエルトを重ね張りしている。

「安打/凡打」を決める補球ポケットの文字はフエルトを切り抜いて白色で示している。
一方、1塁側ファウルゾーンにある「Golden Star Baseba Game」やその他の文字は緑色のフエルトを切り抜き、下地の薄茶で示している。



ゴールデンスター野球盤 木製バックスクリーン

木製バックスクリーン

さらに秀逸なのがバックスクリーン。
なんと木製で、しかも上部に3か所の小さい穴が開いていて、そこに国旗やチームの旗を刺せるようになっている。

ゴールデンスター野球盤 点数が記入できるスコアボード、消しゴム付き鉛筆までついている

しかもスコアボードは毎回の得点を書き込めるようになっており、ご丁寧に消しゴム付き鉛筆までもが付属している。

どこまでも念の入った、手の込んだ作りにただただ驚嘆するのみ。



ゴールデンスター野球盤 注射器ピストン式投球装置

注射器ピストン式投球装置

ではかんじんの「遊びやすさ(playability)」はどうか。

攻撃側に関しては、バネ式のバットを手前に回転させて振りかぶり、押さえた手を放して勢いよく来た球をひっぱたくという、大半の野球ゲーム同様、おなじみの打球装置。

それに対して、投球装置は多くの野球盤のそれとは大きく異なる。

一般的な投球装置はバックスクリーン裏にあるレバーを引き、それを放すことでマウンド上の突起が球を叩いて勢いよく押し出すというもの。

しかし本機の投球装置は、マウンド上にある黄色い注射器のような装置に球を込め、後部のつまみを引っ張って放すことで注射器内部の球が押し出されるという、いわば「注射器ピストン式」とでも呼ぶべき独自の(異色の)構造。

ちなみにこの注射器は左右に向きを変えることができるが、打者から丸見えなので簡単に投球コースを読まれてしまい、それ自体ではあまり用をなさない。

ゴールデンスター野球盤 バックスクリーン裏の返球

それではバックスクリーン裏にあるレバーは何なのかというと、驚くことに球種設定装置。
上の写真では少々見づらいが、半円形になっているレバーの左から順に「S L D R S」と記されている。

これは恐らく

S:直球
L:左方向に曲がる
D:ドロップ(=打者の手元で止まる)
R:右方向に曲がる
S:直球

という変化を示すものと思われる。

盤面を裏返すと打者の手元近くに直径約5cmの円形の凹みがあり、その中に磁石が仕込まれているようだ。
そしてその磁石はバックスクリーン裏のレバー操作に連動して地中を移動し、盤上を転がる投球に影響を与えると想像できる(元に戻らなくなるのが怖いので盤面の分解は断念)。

つまり守備側は、片手で球種を決めるレバーを操り、もう一方の手をマウンドまで延ばして注射器投球装置のレバーを引くことを要求される。
もちろんそれぞれのレバー操作を片手で順番に行っても良いのだが、そうすると余計な時間がかかって試合がダレる可能性がある。

筆者も動画撮影のために攻撃側・守備側を1人2役で操作してみたが、バックスクリーン裏から投球装置をコントロールすることに慣れ親しんでいるので、盤上中央に手を伸ばして投球装置のレバーを引っ張ったり放したりするのは、まるで巨大な手を持つ怪人が突如としてグラウンドに舞い降りたかのようで、著しく興趣を削がれる。

画期的な変化球装置も、経年劣化のせいか、あるいは基本構造に問題があるのか、レバーの位置に応じた球種の変化は残念ながらほとんど確認できない。

以上のことから、結論として本機は遊ぶというより見て楽しむ野球盤という位置づけが適切であろうと思われる。



ゴールデンスター野球盤 附属品収納箱

果たして売れたのか

投球装置にこそ多少問題はあるものの、それ以外は実に素晴らしい完成度を誇る本機だが、さて実際にはどれだけ売れたのか、疑問が残る。

本稿冒頭で記した通り「ゴールデンスター玩具KK」というメーカー自体が今回初耳だし、ネット検索しても何らヒントは得られない。
こうなってくると果たして本機以外に同社から発売された玩具が実際にあったのかすら、ヒッジョーに疑わしい。

いずれにせよ、当時としては高度であろう塩ビ加工技術が採用された工業生産品たる本機は、一定ロットは世に出されたことだろう。
それがここまで長い間世間の眼に触れず、ほとんど誰にも知られずに埋もれていたということは、もしかすると当時まったくと言っていいほど売れずに人知れず廃棄処分されてしまい、その結果、今筆者が目にしているのは、現時点でこの世の中に存在する唯一の個体かも知れぬ。

だとすれば、こうしてその姿を残すことができ、「昭和レトロなアナログゲーム記録係」としては、これに勝る幸せはない。

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