野球盤F型 別バージョン

昭和35年(1960)/エポック社

野球盤F型 別バージョン 全景

別バージョン

本機は昭和35年(1960)発売の「野球盤F型」と、下記の点においてまったく同じである。

■サイズ(38cm×38cm)

野球盤F型 別バージョン 外周の筐体

■筐体(薄緑色の成型プラスチックの外周+金属板の補強・骨格)

野球盤F型 別バージョン 変化球装置

■変化球装置
■外箱のデザイン及び「F型」の文字

野球盤F型 別バージョン 盤面隅の社名クレジット

また、同社のクレジットもF型同様、盤面脇に目立たぬように小さく印刷されている。
(厳密に言えばF型の方が文字が小さく、また社名の前にアライグマ?のような動物が描かれている)

以上のことから本機は「野球盤F型」の別バージョンと推定できる。

野球盤F型 別バージョン 選手イラスト
野球盤F型 別バージョン 選手イラスト

窮余の一策?

本機とF型の唯一にして最大の違いは盤面。
(ここも厳密に言えばスコアボードのデザインも少々異なってはいるが)

本機においては、これまでとは真逆の漫画チックな選手イラストが盤面全体を覆っている。
ファウルラインの外側ならいざ知らず、内外野のフェアグラウンドにまで選手イラストが描かれている野球盤は、エポック社史上、初めてのことだ。

当時このタッチのイラストが広く人気を博していたかは定かでなく、またこれを手がけたイラストレーターが誰であるかも、現時点では不明だ。

それ以前に、そもそもなぜこのような別バージョンをわざわざ投入する必要があったのだろうか?

当時エポック社と野球盤市場で覇を競っていたのは「河田商店・任天堂骨牌」連合軍。

とりわけ彼らが本機と同じ昭和35年(1960)に世に送り出した、あの「ディズニー野球盤A型」は、エポック社陣営を大いに戦慄、震撼せしめたであろうことは想像に難くない。
(同機の稿にて掲載しているが、河田・任天堂連合軍は同年8月号と9月号の「小学五年生」裏表紙に大々的に広告を打っている)

さりとてこの頃のエポック社には、いかんせん登場させる人気キャラクターのツテがまだない。

そこで窮余の一策として、従来の俯瞰視点からのリアルな短縮法とは180度異なる、コミカルで親しみやすい選手イラストを盤面いっぱいに散りばめることで、なんとかして玩具店の店頭で子供の興味を引き、黒船・ディズニーに対抗しようとしたのではあるまいか。

その一方、ライバル社の「ディズニー野球盤」のヒットにより、図らずも野球盤における人気キャラクターとのコラボレイトの重要性に気がついたエポック社は、長嶋茂雄選手をはじめとするプロ野球選手はもちろんのこと、この後「アトム」「オバQ」「巨人の星」といった、新時代の象徴である「テレビ」が生んだ「アニメ」キャラクターを起用した機種を、次々に展開していく。

その意味では、憎きライバル「ディズニー野球盤A型」と、その対抗策として盤面いっぱいにコミカルな選手イラストを無理矢理?あしらった本機は結果的に、エポック社にさらなる大きな実りをもたらす誘発剤の役割を十分に果たしたと言えるのではないか。

だとしたらこれぞまさしく「災い転じて福となす」-エポック社恐るべし。

野球盤F型 別バージョン バットの使い方ペラ
野球盤F型 別バージョン バット引換券ペラ

万全の顧客サービス

本品はありがたいことに、以前の所有者による保存状態が極めて良好で、ボール・スコアボード・選手人形はもちろん、取扱説明書などの附属品がすべて揃っている。

その中で最も瞠目すべきは上掲のペラ。

表面には故障や破損を回避するための、特にバットの使用方法に関する注意喚起。
そして裏面にはなんと、破損したバットの引換券まで-それも驚くことにナンバリング印刷まで付されて-付いているではないか。

確かに子供は時に無茶をする。
ましてやゲームとは言え勝負事の場合、カッカと熱くなると何をしでかすかわかったものではない。

そこでエポック社は、このペラの表面において、特に破損の可能性が高いバットの取り扱い方を丁寧過ぎるほど詳しく説明し、さらに万が一破損した場合の対応策を裏面で示している。

特に筆者は「バット引換券」の心配りに感動を覚えず入られない。
そこには単なる製造発売元としての責任を大きく超えた、顧客をその手に優しく包むような心の温もりが伝わってくる。

エポック社としてはそれが当然の姿勢と考えて取り組んでいることだろうが、この「自社製品と顧客を等しく愛する姿勢」こそが、実質的なオーナーである保護者たちに、

「エポック社とその製品なら安心して子供に買い与えられる」

とのブランドイメージを、それも長きにわたって植え付けることに成功しているであろうことは疑いの余地はない。

同社の強みは卓越した技術開発力と人気キャラクターをタイムリーに起用する巧みなマーケティング戦略だけではない。

こうした

「顧客に寄り添う姿勢を明示する」

企業風土こそが、親から子へ、子から孫へと、長く愛される最も大きな要因ではないかと、強く認識させられた。

吹けば飛ぶような小商いではあるものの、筆者も製造小売業の末座を汚す者のひとりとして、この点を強く肝に銘じておきたい。

いや、今回は勉強になりました、マジで。

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