ビーシーの野球ゲーム(二代目)

昭和35年(1960)推定/萬代屋

ビーシーの野球ゲーム(推定二代目) 全景

本題に入る前に

後に述べるように、本機は同じ商品名を持つ正方形型「ビーシーの野球ゲーム」より後に発売されたものと思われる。
したがって混乱を避ける意味でも、本項においては、あくまで推定ではあるものの便宜的に、正方形型を「初代」、縦長長方形の本機を「二代目」と呼ぶことにする。



ビーシーの野球ゲーム(推定二代目) 、珍しい長方形。

問題作の後継機

そのあまりにも複雑怪奇な遊び方の解明にかなりの時間と労力を要した問題作「初代・ビーシーの野球ゲーム」
本機はその改良型とも言える二代目にあたる。

発売年を特定できる確たる証左は見当たらぬものの、本機の外箱に新たに追記された「実願昭34 50275」の出願日「昭和34年(1959)9月14日」から、この「二代目・ビーシーの野球ゲーム」の発売は「初代」発売の翌年、翌昭和35年(1960)ごろではないかという推測が成り立つ。

「初代・ビーシーの野球ゲーム」の項をお読みいただければおわかりの通り、同機における操作は攻撃側・守備側を問わず、実に煩雑を極めた。

攻撃側はゴロではなく「飛んでくる」投球を打ち返すと同時に手元のレバーをグイグイ回し、グラウンド上ある透明円盤に乗った打者走者を一刻も早く1塁ベースに到達せしめなければならない。

一方の守備側も、片方の手で投球装置のレバーを引いて放して磁石付きボールを投げると同時に、もう一方の手に、先端に捕球用鉄板が埋め込まれたグローブが付いている長さ37cmの木製スティックを握りしめ、打球の行方を追わねばならない。

そしてスティック先端が打球を吸着したら急いで打者走者にタッチする、その時点で打者奏者が一塁ベースに達していればセーフ、いなければアウト…。

…せわしないにもほどがあるし、プレイヤー2人のほかに審判係の第三者がいなければ、セーフ/アウトの微妙な判定を巡ってすぐにも乱闘騒ぎが勃発するだろう。

せっかく当時の南海ホークスのスタープレイヤーを広告に起用しても、こうまで難解(シャレにあらず)な遊び方を持つ野球ゲームが広く世の中に受け入れられようはずもない。

そうした「初代」の反省を糧に改良を重ねた萬代屋が、翌昭和35年(1960)ごろに改めて世に問うた野球ゲームが本機ということになろう。



ビーシーの野球ゲーム(推定二代目) 可動式捕球アーム

可動式捕球アーム新登場

「初代」における問題点のひとつは、上述の通りその「打球の捕捉方法」にあった。

「ゲーム」と名のつく以上、打球の捕捉動作はそのゲームが本来持っている機能や装置により、半ば自動的に行われるべきものであり、そこに-たとえ長さ37cmの磁石付き木製スティックを「道具」に用いたとしても-「人力(この場合は人間の腕)」が介在するべきではなかろう。

ビーシーの野球ゲーム(推定二代目) 可動式捕球アーム先端の鉄板グローブ

そこで本機において内外野の打球捕捉装置に新たに採用されたのが、なんとも画期的な「グローブ型鉄板付き可動式捕球アーム」。

アームの先端にあるグローブ型鉄板が打球に埋め込まれた磁石を引き寄せるという、いわば逆転の発想。
そして守備側は打球の方向を先読みし、写真のように可動式アームを動かせることで、いわゆる「シフト」を敷けるというわけだ。

実用新案を取得したグローブ型鉄板付き可動式アーム

なお、この「グローブ型鉄板付き可動式アーム」による捕球装置は昭和34年(1959)9月14日に実用新案出願され、2年半後の昭和37年(1962)2月24日にめでたく 公告の運びとなったが、かんじんの本機はそのころすでに市場から姿を消していたと思われる(泣)。

外野及びファウルゾーンに新たに設置された捕球ポケット

また、外野に飛ぶ打球を長打と判定するために、本機では野球ゲームの定番である「ポケット式捕球装置」も新たに導入された。



ビーシーの野球ゲーム(推定二代目) 美しい俯瞰視点の短縮法イラスト①1塁型
ビーシーの野球ゲーム(推定二代目) 美しい俯瞰視点の短縮法イラスト②3塁型
ビーシーの野球ゲーム(推定二代目) ビーシーの野球ゲーム(推定二代目) 美しい俯瞰視点の短縮法イラスト②バックネット裏観客席

美しい俯瞰視点の短縮法イラスト

本機におけるバックネット裏観客スタンド上方からの視点に基づく俯瞰イラストの美しさは圧巻だ。

厳密な短縮法に基づく、豆粒のように見える各選手や審判の一瞬の動きを捉えた描写は見事だし、左右対称ではあるものの、内野スタンドを埋め尽くす観客も細かく描き分けられている。

特に通路を歩く売り子まで描かれているのには思わず脱帽、恐らく野球ゲーム史上、最初で最後となる売り子の姿ではなかろうか。



ビーシーの野球ゲーム(推定二代目) 投球装置がトルネード投法から直線型に変更

消えた「トルネード投法」

ボールは初代と同じ、ご丁寧に縫い目加工まで施された直径10mmに満たないプラスチック白球に、直径3.4mmの黒い磁石が埋め込まれたもの。重さは1g。

投手人形右手の肘から先は内側がくぼんだ半円形(要はどんぶり)になっており、その内側全面に鉄板が貼られている。
詳しく見ると「初代」の投手はどんぶり部分がはめ込み式になっているが、本機では肘と一体化している。

とまあ細かい相違点はさておき、投球人形の形状・サイズにおいて「初代」「二代目」の間に決定的な差異はない。

一方、人形が投球動作を行う装置については、本機で大きな変更が加えられた。

「初代」の投球装置は、バックスクリーン裏のレバーを引くと投手人形が約45度ほど右にグイーっと引き絞られ、引いたレバーから指を放すと人形が反動で勢いよく45度回転して元の体勢に戻るというもの。

そしてその衝撃でボールが吸着していた右手先端のどんぶりから放たれ、ゴロではなく打者に向かってかなりの高速で宙を飛ぶ。

そのあまりの速さゆえ打ち返すのは至難の業で攻撃側は空振り三振の山を築くはめになる。
これではさすがに面白くはないだろう。

そこで本機では、「初代」、いわば「トルネード投法」にかわり、ごく単純な「前後移動式投球動作」が採用された。

センターバックスクリーン裏にあるレバーを引くと投手人形が1cmほど後方に引っ張られ、レバーを放すと反動で人形は元に戻り、ボールは投手人形の手を離れる。

確かにこの投球動作の変更より投球スピードは「初代」に比べてガクンと落ち、その分バットがボールに当たる確率も格段に高まった。

その一方、投球動作を回転式のトルネード投法から大幅に反動の少ない前後運動に変更したことにより、投手人形の手元を離れたボールはすぐに地面にバウンドしてしまい、打者装置の手元に来るころにはすっかりゴロ球になり果てている。

エポック社製野球盤とは決定的に異なる「初代」の特徴が「宙を飛ぶボール」にあったことを考えると、この変更はむしろ「本末転倒」とは言えまいか?

まあ言ってみれば「名より実を取った」というところか。



ビーシーの野球ゲーム(推定二代目) 、外野の補給ポケットに収まる打球
ビーシーの野球ゲーム(推定二代目) 、外野フェンスに吸着する打球

場外ホームラン乱発

投球スピードが落ちたとはいえ、そこは重さわずか1gのプラスチック球だ、バットに当たりさえすれば、まあ飛ぶ飛ぶ。
それもゴロではなく、ライナー性の打球となって内野の守備を固める鉄板グローブ隊の頭上を軽く超えていく。

外野の塁打ポケットに加え、外野フェンスには「アウト」「塁打」が交互に表示された鉄板がはめ込まれ、フェンス直撃の打球をキャッチできる設計にはなっている。

しかし「初代」に完備されていた「場外ホームラン防止用外野観客スタンド」が撤廃されたことで場外ホームランが頻発、いずこともなく消えた打球を探して何度となくゲームが中断されたであろうことは想像に難くない。

実際筆者も、下記の動画撮影中に場外ホームラン連発、危うくボールを紛失するところだった。

ボールは他社製野球盤ゲームと違ってパチンコ玉などの鉄球で代用できない以上、予備球が10個くらい付属されていないとあっという間に在庫が底をつき、文字通りゲームオーバーとなりかねない。

できることなら対戦する2人以外にも、上述の審判に加えてさらにもう1人、守備側の後方に待機して場外ホームランもれなく捕捉する人員をも確保しておくことが望ましい。

ともあれ結果的に二代目となる本機は、必ずしも「初代」の反省を踏まえて劇的な改善が図られた、とまではとても言い難く、したがって大きな話題にもならず確たる販売実績も挙げることなく、残念ながら早々に市場から姿を消したであろうことは想像に難くない。

野球ゲーム黎明期において二度にわたり苦杯を舐めさせられる格好となった萬代屋(昭和36年「バンダイ」に社名変更)、さすがに懲りてこれ以降野球ゲーム市場から完全撤退したかに思われたが、なんとこの後12年もの時を経て衝撃の問題作「電動野球ゲーム」を華麗にひっさげ、三度目となる参入を果たす。

さすがに「宙を飛ぶボール」の更なる進化こそ断念したようだが、今度はそれに代わって「自動走塁する走者」の具現化に見事成功!

老舗玩具メーカー・バンダイの意地とプライドと燃えるような執念が12年の時を経て、ついにここに結実。

昭和のモノづくりはかくも熱かった!

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