新魚雷戦ゲーム(四代目)

昭和49年(1974)/エポック社

新魚雷戦ゲーム(四代目) 全景

改善かはたまた改悪か

歴史的名機と(筆者だけに)勝手に謳われた三代目から3年の時を経て、昭和49年(1974)に発売された、大ヒットシリーズ四代目となる魚雷戦ゲーム。

もっともこの当時筆者はすでに中学2~3年生であり、さすがに魚雷戦ゲームからは卒業していて本機をオンタイムで目にした経験はない。

しかし今回本稿を執筆するにあたり、小学5年生の正月に東京駅八重洲地下街に当時あった玩具店「いせや」で母親に買ってもらって以来、いっときは夢中になって遊んだ三代目と本機を比較すると、少々首をかしげざるを得ない変更点が随所に見受けられる。


新魚雷戦ゲーム(四代目) パッケージイラスト

ちなみに本機のパッケージは白地を基調とした三代目のそれとは真逆の赤地が印象的だ。
こんなところにも「一新感」を醸し出そうとするエポック社の必死のマーケテイング戦略が見て取れる。



新魚雷戦ゲーム(四代目) 初めて対角線上に配置された魚雷発射装置

魚雷発射装置の対角線化

まず本機最大の特長に挙げられるのは、なんといっても相互の発射装置が魚雷戦ゲーム史上初めて対角線上に配置された点。

これまでの機種では「はるか遠くの海上を進む敵艦隊」に向けて魚雷を対角線に発射するところに醍醐味があったのだが、本機で魚雷発射装置の対角線上に見えるのは敵艦隊の旗艦ではなく、敵の魚雷発射装置だ。

その一方、敵の旗艦は発射装置の真正面にあり、したがって発射された魚雷の航続距離も従来機種のそれより5cmほど短くなった。

そしてもちろん、その分だけ魚雷の的中率がさらに上がるであろうことは想像に難くないし、ひょっとするとそれこそがエポック社開発陣の秘かな狙いだったのかもしれない。



新魚雷戦ゲーム(四代目) 三代目との筐体の色・形状比較

筐体のギミック化

全体のサイズは三代目と変わらないが、筐体の色が戦艦のボディを思わせる三代目の灰色から明るい水色に変わった。
さらに、戦艦の甲板部分と大海原との違いを表現するためか、筐体側部に段差が設けられている。


新魚雷戦ゲーム(四代目) 三代目との海面プラスチック版色比較

しかしそれ以上に、海面を表すプラスチック版が「限りなく透明に近いブルー」に変わったことに驚きを隠せない。

確かに初代二代目の海面を表すプラスチック版は少々青が濃すぎて魚雷の軌道がほとんど目視で追跡できなかった。

その点も三代目では見事にクリアされ、少しだけ紺が薄まった海面は大海原のイメージはそのままに、魚雷の軌道をしっかり目で追うことができ、それにより発射装置の角度修正もずいぶんと容易になった。

しかし本機における海面の色は、大海原というよりむしろ、どこか海水のきれいなリゾート地を思わせる。
これではまるでのんびりバカンスに来ているかのようで、大海戦の高揚感・緊張感といったものは一向に生まれてこない。

恐らくこの変更は魚雷の軌道を、従来機よりいっそう遊戯者に見やすくさせるための措置であろうが、個人的には逆にその動きが見え過ぎて「音もなく忍び寄る魚雷がいきなり命中して撃沈」というスリルを奪われるような気がして興ざめだ。


新魚雷戦ゲーム(四代目) 後方から見た甲板ギミックの有無

また、魚雷発射装置横の上部筐体を撤去し、その分広くなった溝に傾斜をつけたことにより、魚雷や撃沈された戦艦を拾い上げることがさらに容易になったが、その上部が魚雷発射装置から続く甲板を表現するために、ダミーの魚雷3発が浮き彫りにされたカバーで覆われてしまった。


魚雷戦ゲーム(四代目) 三代目との海面プラスチック版色比較

それにより相手艦隊の上部に横たわる余計なカバーが目に入り「”遠くの海上”を航行する敵艦見ゆ!」という興趣が著しく削がれてしまう。

ハッキリいってこれは「改悪」以外の何物でもない。



新魚雷戦ゲーム(四代目) 三代目との魚雷発射装置比較

小型化した魚雷発射装置

何より驚いたのが、夢のリフレクトスコープまで搭載され、魚雷戦ゲーム史上最大の大きさとなった三代目から一転して、魚雷発射装置が驚くほど小型化されてしまった点。

もちろんこれはシリーズ史上最少サイズの魚雷発射装置だ。


新魚雷戦ゲーム(四代目) 三代目との魚雷発射装置比較

小型化に伴い、従来2門あった発射口は1門に減らされたが、その一方でまったく無意味なダミーの発射管が3門も据え付けられれている。

上述のダミー魚雷といい、このダミー発射管といい、ゲームの本質とは無関係な「こけおどし」の意味するところはいったい何なのか。



新魚雷戦ゲーム(四代目) 後方から見た全景

魚雷戦マニエリスム

筆者思うに、先代の三代目で完成の域に達した魚雷戦ゲームにはもはや(当時とすれば)改良の余地はなく、残されたのは「装飾」だけだったのではなかろうか。

はるか昔のイタリアにおいて、ダ・ヴィンチからミケランジェロを経て、ラファエロによって最終的に完成されたルネサンス絵画は、それら3人の大巨匠亡きあとは、人体を引き延ばしたりS字にくねらせたりと、技法(=マニエラ)という名の装飾に走り、その本質から少なからず乖離してしまう。

さしたる名画の生まれなかったその時代のイタリア絵画をひとまとめに「マニエリスム」と総称するが、この魚雷戦ゲームシリーズもここまで似たような変遷を辿っているような気がしないでもない。

とすれば本機は技法に走った「魚雷戦マニエリスム」の産物ということもできよう。

本物のマニエリスムは16世紀末に彗星の如く登場した鬼才・カラヴァッジョが幕を開ける「バロック」という名の美術新時代にあっという間に飲み込まれてしまう。

では、このいささか陳腐な「魚雷戦マニエリスム」も、やがて現れるあろう「魚雷戦バロック」に、いとも簡単に、それこそ「駆逐」されてしまうのだろうか?

それはともかく、当時この四代目で遊ばざるを得なかった、筆者よりおよそ3歳年下(1962生まれあたり)の男児たちが、あまりにも気の毒に思える。
できることなら名機・三代目で、スリル溢れる大海戦を、思う存分堪能させてあげたかった。

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