チャンピオンボウリング
昭和46年(1971)推定/エース・トーイ
なんだか怪しい
突如として筆者の眼前に現れた、まったく得体の知れないボウリングゲーム。
外箱にSTマークが印刷されていることから、昭和46年(1971)以降の発売であることは確か。
しかし、エース・トーイという、失礼ながらあまり耳なじみのない社名といい、他のボウリングゲームとは明らかに異なる、どこか南米を思わせる異様な外箱パッケージといい、正体不明感満載の、なんとも怪しげな機種だ。
なんだか似てる
怪しげなのは社名やパッケージだけではない。
サイズといい、鮮やかなスカイブルーの筐体といい、木目調レーンといい、全体的にはエポック社の大ヒット機種「パーフェクトボウリング」に少なからず似ている。
もっとも、同機がエポック社独自の「タケノコ式」ピンセッターを搭載しているのに対し、本機はごくシンプな「開閉式」を採用している。
しかしそのピンセッターの形状はやはりエポック社パーフェクトボウリング ジュニアーに酷似している。
さらに怪しいのが投球装置。
本機ではレーンから取り外し可能な投球装置を用いているが、ちょっと待て。
ここで改めて上掲2点の写真をご覧いただきたい。
上は投球装置を上から見たもの、下は裏からみたカット。
いずれも左のオレンジ色は野村トーイBIGビッグボーリング、右の乳白色は本機の、それぞれ投球装置の写真。
下の写真において左のBIGビッグボーリングは丸い突起をレーンに対して横向きに差し込んでから90度左に回して装着する方式、
それに対して本機は丸い部分をただそのままレーンに差し込むだけ、という構造的差異はあるものの、
それ以外の形状とサイズは両者同一といっても過言ではない。
以上のことから、本機は
■「パーフェクトボウリング」
■パーフェクトボウリング ジュニアー
■BIGビッグボーリング
これら人気3機種のいいとこ取りの類似後発機種ではないか?という疑問が筆者の脳内に激しく渦巻く。
この「エース・トーイ」は「レインボー水車」などプラスチック製の小型おもちゃを販売する玩具メーカーだったようだが、日本列島を揺るがした昭和46年(1971)の大ブームで、玩具メーカー各社が競って発売したボウリングゲームが軒並みヒットを記録するのを横目で見るうち、
「よし、当社もボウリングゲームでひと儲けだ!」
とばかり、先行人気機種を研究し尽くし(あえてパクッて、とは言わないが)、満を持して同年末か翌年早々に発売されたものではなかろうか。
ところがエース・トーイの思惑に反して、あれだけ日本列島を熱狂の渦に巻き込んだボウリングゲームも翌昭和47年(1972)を迎えるとあっという間に鎮静化してしまい、同社の経営戦略はもろくも崩れ去る…。
こんなストーリーを思い浮かべつつ半世紀後にひっそりと残された本機を眺めるに、ブームに翻弄された中小製造業者の悲哀が聞こえてくるようで、なんとも言えない切なさが募る。
投球人形不在が惜しい
誕生から50年の歳月を経て、縁あって筆者の元に到着した本機は、当時の子供たちの手あかに汚れていた。
それだけではない、箱の内側一面には子供の字でびっしりと成績表が書き込まれている。
しかもそこに登場する名前の多さは尋常ではなく、クラスの子供たち全員が本機を取り囲んで熱く盛り上る光景がありありと浮かんでくる。
いくらパクリだ(言ってるじゃあねえか!)、時すでに遅しだ、などと後世の好事家から一方的な批評を受けようと、本機は50年前のいっとき、持ち主である子供とその友人たちを興奮と熱狂の渦に巻き込んだことだけは紛れもない事実だ。
アルコール除菌ウェットタオルで彼らの手あかを丹念に拭き取りつつ、筆者はそこはかとない幸福感に浸っていた。
ただただ、惜しむらくは投球人形の不在。
まことに残念なことに、本機の投球人形は破損、あるいは乱闘騒ぎの最中の紛失により、投球装置の上から姿を消している。
外箱の横には使用方法説明文とともに、拙いイラストが描かれているが、できることなら実物の投球人形に一目会いたかった。
これほどまでに希少な機種が再び出回る可能性はヒッジョーに低かろうから、投球人形との邂逅も叶わぬ夢で終わりそうだ。
だがもし将来、とてつもない幸運に恵まれて本機の投球人形が入手できた暁には、写真も動画も喜び勇んで差し替えるとしよう。
今は遠からずその日が来るのを祈るばかりだ。
なお、下の動画撮影においては、投球人形が不在だと今ひとつ「在ボウリング場」気分が出ないので、ソックリな投球装置を持つよしみでBIGビッグボーリングの投球人形に友情出演をお願いした。