パンチアウトボーリング
昭和46年(1971)/トミー
国内最大のボウリングゲーム
全長2メートルと国内最大サイズを誇る超デラックスなボウリングゲーム。
本機も他の多くのボウリングゲーム同様、日本国中をボウリングブームが席巻していた昭和46年(1971)年、トミー(現タカラトミー)から発売された。
価格は¥8,800、同年サラリーマンの平均年収が約100万円であることから、現在の価格にするとおよそ¥45,000といったところか。
そんなわけで当時小学校5~6年生だった貧乏小売り店の息子には無縁の世界の話で、それから30年を経た平成12年(2000)、当時日本でのサービスが開始されたばかりのインタネットオ―ションによって、ようやく本機の存在を知ることになる。
当初はその圧倒的なサイズゆえ、てっきり海外玩具メーカーからOEM供給を受けたものだと思い込んでいたが、実際入手してみるとピンセッターの横っ腹にMade in Japanの文字が誇らしげに彫り込まれていて大いに驚かされた。
当時、中山律子、須田開代子と並ぶ人気を誇っていた美人女子プロボウラー・石井利枝を広告に起用していたことからも、サ・ワ・ヤ・カ律子サンの投球写真とサインが大々的に印刷された外箱で大ヒットを記録していたエポック社「パーフェクトボウリング」シリーズへの、老舗玩具メーカー・トミーの並々ならぬ対抗心が窺える。
発売当初の貴重な商品ポスターを掲載している素晴らしいWebページに敬意を表しつつ謹んでリンクさせていただくが、同ページにある「1965年」は誤りで正しくは「1971年」の誤り。
レーンを転がるボールの速度がリアル
中~小型のほぼすべてのボウリングゲームが、それぞれ多少大きさは異なるものの、いわゆるパチンコ玉状の鉄球をボールに採用している。
そのため、投球装置から放たれたボールは目にも止まらぬ速さでピン目がけてレーンを疾駆する。
一方、本機に採用されているボールは実際のボウリングボールを小型化したような作りで、直径も約4cmと、パチンコ玉とは比較にならない大きさだ。
滑り台式投球装置から放たれたボールは本物のボウリング場と見紛うような、なんとも重厚なスピード感を保ちつつピンに到達する。
この、長いレーンをボールがゴロゴロと転がっていくときのドキドキ感は、まさに「在ボウリング場気分」を高揚させるに十分のリアリティを伴う。
その点については下の動画でぜひともご確認願いたい。
もっとも、この手の「ゴロゴロのリアル感」を伴う大型ボウリングゲームは本機だけではなく、
■ジャンボボーリング(マルハタ)
■パーフェクトボウリングカスタム(エポック社)
■ファミリーボーリングジャイアント(野村トーイ)
以上3機種でも同様の感覚を味わうことは、できるにはできる。
それでもやはり2メートルという全長は圧巻であり「在ボウリング場気分」という点でいえば、本機は他の追随を許さない。
スウィーパーに構造的問題あり
他機種の項においても何度となく言及しているが、第1投後、レーン上に倒れたピンを掃き出すスウィーパー機能の有無も、ボウリングゲームにリアリティを求める上で必要不可欠な要素だ。
そして本機に搭載されているスウィーパーの動きは、全ボウリングゲームの中で最も本物のボウリング場に近いと言っても過言ではなかろう。
ところが、そんな、一見非の打ちどころのないように思える超本格派スウィーパーだが、実は大きな問題を抱えている。
その遠因と考えられるのが、本機のスウィーパーが他機種のそれとは決定的に異り、
「スウィーパーがピンセッターから独立している構造である」
という点だ。
筆者の知る限り、他のすべての機種のスウィーパーはピンセッターと連動して動くように設計されている。
したがって、ピンセッターを上下、もしくは機種によっては後方に移動させると、それと連動してスウィーパーがレーン上に倒れたピンを奥に押し出す仕組みだ。
しかし本機のスウィーパーの構造及び動作はまったく異なる。
第1投後に倒れずに残ったピンをピンセッターが掴んで持ち上げ、そのままレーン後方に移動させる。
次いで、スウィーパーの動きを制御する専用レバーを左に倒すと、スウィーパーがレバーの動きとは逆にレーン上を奥まで移動しつつレーン上に倒れたピンを掃き出し、レバーを右に戻すと今度はスウィーパーが来た道を戻ってせり上がり、ピンセッター上部に格納されるという仕組み。
問題はピンセッターの内側にある、レバーの動きをスウィーパーに伝達するためのブラックボックス内のギアの構造。
レバーを倒すことでスウィーパーを長く移動させる役割を担うプラスチック製のギア(ブラックボックス内にあるため外からは見えないが)にはかなりの負荷がかかり、早晩ギアは負荷に耐えかねて破損してしまう。
個人的な恥を晒すようでたいへん恐縮だが、実は筆者、本機を4台も所有している。
それらを便宜的に、入手した順にA、B、C、Dと呼ぶことにする。
令和4年10月某日、動画撮影すべく入手したAを組立て、スウィーパーのレバーを左に倒したとき、
「ぺキン」
という音がしたと思ったら、何やらプラスチックのギヤらしき破片がピンセッター内側の金属で覆われたスウィーパー連動部分から飛び出した。
咄嗟には何が起こったのか理解できなかったが、その後はいくらレバーを動かしてもスウィーパーは微動だにせず、そこに至ってようやく「スウィーパーを動かすギアが負荷に耐え切れず破損した」と理解するに至った。
続いて入手したBは当初からギアが破損していたようでスウィーパーはウンともスンとも言わず。
そこでネット検索すると、同様の症状を修理したブログを発見、こうなるとスウィーパーを動かすレバーの裏にあるブラックボックス内のギアに構造的に問題があろうことは明白だ。
しかしこちらにも意地がある、ここまできて引き下がるわけにはいかない。
その後、立て続けにC、Dの2台を落札、前回の動画収録断念から10か月後の令和5年8月某日、捲土重来を期して再度動画撮影挑戦と相成った。
最初に引っ張り出したのは散々遊ばれた形跡が濃厚に残っている中古品のC、組立てた後に恐る恐るレバーを倒すとスウィーパーは問題なく作動し、最終的に無事ピンセッター上部の所定の位置に収まった。
これに気を良くして早速本番の撮影を開始。
1投目を終え、残ったピンをピンセッターで持ち上げ、スウィーパーのレバーをほんの少し手前に倒したとき、あのイヤな
「ペキン」
の音ともに、無情にも破損したギアの一部がブラックボックスから飛び出してきた。
なんだなあおい!さっきはうまく行ったじゃあねえか!
呆然自失とはまさにこのこと、二度あることは三度ある。
残る1台はD、こちらは外箱こそ経年劣化しているものの、どうやら未使用の新品らしい。
組立てを終え、祈るような思いでレバーを倒すと無事作動、もっとも最初の1回で壊れてしまっては泣くに泣けない。
そしていよいよ運命の撮影。
1投目終了時点までは先ほどのCの撮影を流用、倒れたという設定でピン4本をレーン上にまき散らし、残ったピンをピンセッターでつまみ上げ、さあ緊張の一瞬だ。
そぉーっとレバーを倒すとスウィーパーは少々ぎこちない動きながらも倒れたピン4本をレーン奥に吐き出し、レバーを戻すとともにピンセッター上部の所定の位置に収まった。
このときこみ上げてきた感動は、なかなか言葉に表すことができない。
こうして無事動画の撮影に成功したが、このDとて、使用を繰り返せばやがてはギアが破損するであろうことは目に見えている。
それを見越してか、一定期間の無償修理を謳う保証書もついている。
思えば保証書が付属するボウリングゲームというのも筆者の知る限り本機だけだ。
しかし、たとえ破損したギアを交換修理したところで、使い続ければやがてはまた同じ破損が発生する確率は高い。
その時点で保証期間が切れていればお手上げだ。
製造コストの問題もあるだろうが、少なくとも高い負荷がかかり、破損しやすい部分のギアだけは、プラスチックではなく金属製にすべきではなかったか。
ともあれ10か月越しの無意味な執念が実り、ようやく動画完成に漕ぎつけたが、唯一完動品として残ったこのDはもはや家宝の領域、よほどのことがない限り今後二度と使用することはないだろう。
そのうち思いっきり時間があるときにでも、今回の撮影で破損したCのギアを、アロンアルファで接着してブラックボックスに収める修理に挑戦しよう。
あ~疲れた。