ミニパーフェクトボーリング
発売年不明/メーカー不明
その素性、手がかりなし
メーカー、製造年とも不明、謎に満ちたボーリングゲーム。
箱と説明書に「山にST」のトレードマーク?とMADE IN JAPANの文字が印刷されてはいるものの、メーカー名はどこを探しても見当たらない。
発売年に関しても日本玩具協会認定のSTマーク(上述の発売元ロゴを表すSTマークとは無関係だが紛らわしい)がないため、束の間のボウリングブームが日本国中を席巻した昭和46年(1971)以前に製造・発売されたものと推測できる。
サイズは全長40cm×幅9.5cmと、ボウリングゲームとしては最も小型の部類に属しよう。
レーンだけは本格的
本機でなんといっても特筆すべきは、そのレーン。
全長30cm×幅6cmともちろん小型ではあるのだが、青い成型プラスチックの筐体にはめ込まれたそれはブリキ製で、板目やスリットだけでなく、驚くことにリリース・ドットやスタンス・ドットまでも印刷されている。
他機種の項でも何度か言及しているが、筆者はボウリングゲームの肝はピンセッターや投球装置ではなく、「リアリティ溢れるレーン」にこそあると信じて疑わない。
昭和46年(1971)のブーム以前、ボウリング場は「庶民憧れの娯楽スポーツ」であった。
筆者自身、小学校4年生だった、まだブーム前の昭和45年(1970)、父に連れられて今はなき「鶯谷スターレーン」で、生まれて初めてボウリングレーン上に立った時の何とも言えぬ高揚感と興奮は、半世紀以上が経過した今日でもいまだに忘れがたい。
それを自宅で手軽に再現するためのボウリングゲームには、たとえ小型であっても「本物のボウリング場のようなレーン」が不可欠だと考えている。
またレーンの長さと幅のバランスも、実際のボウリング場における「約18m:約1m」には遠く及ばないものの「5:1」と、ボウリングゲームの中では比較的本物のボウリング場のそれに近い比率となっている。
ミケランジェロ「ピエタ」風投球人形
投球装置は、手前にある取っ手をつまんで引っ張り、それを離すことでバネの作用で元に戻った投球人形からボールが放たれる仕組みで、ボールを乗せる「お玉」を含め、装置全体はヨネザワ製の一連のダイヤモンドボーリングシリーズに酷似している。
特にリーゼントが特徴的な男性ボウラーの風貌は「ダイヤモンドボーリング」におけるそれに極めて近いが、同機および「ダイヤモンドキングボーリング」において男性ボウラーの手足が「食べ終えたカニ脚」ようにパックリ割れているのに対し、本機の手足はしっかりとした造形を保っており、その点ではヨネザワ製シリーズの最高峰「ダイヤモンドクイーンズボウリング」における、投球人形の最高傑作とも言うべき女性ボウラーに近い。
しかし、かといって細部まで作り込むことなく、あたかも未完成のような大まかなモデリングは、あのミケランジェロの最晩年、88歳の「未完のピエタ像」にも通ずるゴツゴツとした荒々しい魅力に溢れており、その存在感に圧倒される。
謎は深まるばかり
以上のことから、本機はヨネザワ製機種となんらかの関わりがある可能性も想起させられるが、一方でそのネーミングは後のエポック社の大ヒットボウリングゲームシリーズの登場を予告しているかのようだ。
さらに言えば、ピンセッターが(遊戯者の年齢に応じてハンデを設けるためか)「可動型三角定規式」を採用している点、および後の大メーカーのそれには見られないパッケージデザイン・イラストのなんともいえない「町工場っぽい素朴さ」などについては、辰巳屋の「ビッグボーリングゲーム」との関連も指摘できるかもしれない。
いずれにせよ、かなり早期の発売であるはずにもかかわらず、ここまでの完成度を誇る本機は、ボウリングゲーム黎明期における隠れた名機と言っても過言ではなかろう。
発売元を明確にしない理由は不明だが、上述の無責任な推測(妄想)の中に、何らかのヒントが隠されているかも知れない。
いずれにせよ長く歴史の闇に埋もれていた本機が、半世紀以上の時を経て、たとえほんの少しでも日の目を見ることができたとすれば、「昭和レトロなアナログゲームの記録者」としてこれに勝る幸せはない。