野球盤

発売年不明/Sanei-Mokko

野球盤 Sanei-Mokko製 全景

謎に満ちた世紀の珍盤

野球盤をはじめ筆者が所有するアナログゲームは、ここ15年以上、自宅と勤務先の中間地点に位置するトランクルームに放り込みっぱなしにしていた。

それがコロナ禍で恥ずかしながら経費節減を迫られたことにより、2021年秋から少しずつ勤務先3階ロフトに移動させていて、それがきっかけとなって20年以上放置していた時代遅れも甚だしい旧型Webサイトの再構築に着手した。

しかし結局のところ、トランクルームにぎっちり詰め込まれている総数不明のおびただしいゲーム群が勤務先の狭いロフト空間にすべて収まろうはずもなく、当初の目的であった撤退による経費節減は不可能と判明した。

それでもこの機会に、とうの昔にネットオークションで落札、入手してはいたものの、これまでWebに紹介してこなかったゲームを新たに掲載する作業を根気よく続けている。

つい先日も出勤前にトランクルームに立ち寄り、いつくかの小型野球盤を引っ張り出しては勤務先に運び込んだ。
その中に、外箱がなく、プチプチに包まれただけの野球盤が紛れ込んでいた。
サイズから判断して、恐らくはエポック社の野球盤F型であろうと思った。

ところが、プチプチをビリビリと破ると、中から出てきたのはまったくの正体不明、これまでお目にかかったこのとない、もちろんその存在すら知る由もなかった、まさに世紀の珍盤。

野球盤 Sanei-Mokko製 盤面裏

ポピュラーC型に瓜二つ

外見はエポック社の「野球盤ポピュラーC型」にソックリ、サイズも38cm×38cmと、C型と同じ。
盤面裏に組まれた木製の骨格、合板による外枠と盤面など素材の構成も同一だ。

それでは逆に、ポピュラーC型とは異なる点を確認して行こう。

野球盤 Sanei-Mokko製 アウト穴

■打球が飛び込む穴がC型ではソフトビニール製であるの対し、本機はブリキ製。

野球盤 Sanei-Mokko製 選手人形のない盤面

■C型に付属するプラスチック製の選手人形が存在せず、それを盤面に突き刺す穴も開いていない。

野球盤 Sanei-Mokko製 バックスクリーンは得点板に印作

■C型にある厚手のボール紙製バックスクリーンがなく、得点板は盤面のセンター奥部分に印刷されている。

野球盤 Sanei-Mokko製 盤面に印刷されたヘタな選手イラスト1
野球盤 Sanei-Mokko製 盤面に印刷されたヘタな選手イラスト1

■盤面ファウルゾーンに描かれている選手イラストが、俯瞰視点による見事な影付きの短縮法であるのに比べると、本機におけるそれはご覧の通り稚拙で、選手の影も描かれていない。

そして決定的な違いはココ!

野球盤 Sanei-Mokko製

■3塁側外野付近のファウルゾーンにはエポック社製であることを表す”Epoch’s”ではなく、"Sanei-Mokko”と表示されている。

野球盤 打者から見える投球レバー

60年を経た邪推

以上のことから、次のような推測が成り立つ。
ただしこれはあくまで筆者の個人的な邪推、あるいは妄想に過ぎないことをお断りしておく。

盤面に印刷された Sanei-Mokko を仮に「三栄木工」としよう。
もちろん現存する同一社名の企業とは何ら関わりないので悪しからず。

この「三栄木工」はエポック社からB型D型そしてポピュラーC型と、一連の野球盤シリーズの盤面製作を請け負っていた。
今日でいうところのOEM(相手先ブランドによる製造)供給だ。
「三栄木工」が担当するのは野球盤の基本となる骨格・外周・投球及び打球装置を含めた盤面の製造及び組立てであり、盤面印刷のデザインはエポック社から支給されていた。

一方、打球が飛び込むソフビ穴、ボール紙製のバックスクリーン、プラスチック成型の選手人形については、エポック社は「三栄木工」とは別の外注先に製作委託していた。

以上の経緯により「三栄木工」はF型の基本構造を製作することができ、それは実際に野球盤として成立するに十分な機能を備えていた。

さて問題はここからだ。
それではなぜ「三栄木工」がこのF型ソックリの野球盤に自社名を冠して世に出すことに至ったのか、その経緯は今となっては完全に謎の闇に包まれている。

考えにくいことだが、
■ひょっとしてエポック社と「三栄木工」との間で発注数や金額、支払い時期などを巡って何らの齟齬が生じたか。
■それともポピュラーC型野球盤のあまりの売れ行きの良さに嫉妬した「三栄木工」がコッソリ海賊版を世に出したか。
■はたまた一般発売はせずに、何らかの理由により内々にごく少数だけ製作したか。

個人的には最後の「内々少数製作説」を採りたい。

仮にエポック社と間で何かの問題が生じたとしても、OEM供給元が供給先に無断で類似商品を製造販売するという行為は、いくら何でも商道徳の観点から現実的ではない。

「コッソリ海賊版説」についても同様だ。
秘密裏に発売したとしても、玩具流通に乗ればたちまちエポック社の知るところとなり、たいへんな額の損害賠償を負うことになろう。
常識と良識のある経営者であれば、とてもそんなリスクを冒すとは思えない。

どうやらこの謎を解くカギは社名の"Mokko"にあるような気がしてならない。
それが「木工」を指すであろうことはまず間違いあるまい。

本機の盤面提供を受けたエポック社が「野球盤ポピュラーC型」を発売したのは昭和34年(1959)。

ところがこの翌年、昭和35年(1960)に発売された本機と同サイズの「野球盤F型」では、球場の外周に本機のような木製の合板ではなく、成形(と思われる)プラスチック板が採用されている。
加えて盤面裏で合板の外周を支え、さらに縦横に組まれていた屋台骨も、木板から金属板に取って代わられた。

そう、たった1年で使用部材が「合板+木板」から「プラスチック+金属板」へと大変革を遂げてしまったのだ。
それは手工業から工場による大量生産への移行を如実に示している。
そしてそうなればエポック社と「三栄木工」との間の製品供給関係も必然的に打ち切りとならざるを得ない。

招かれるようにして華々しく参入していくる者がある一方、ひっそりと退場を余儀なくされる者もある。
時代の流れ、技術の進歩はこのように残酷な側面も持ち合わせていることを痛感させられる。

そして「三栄木工」は最後に、ほんの少しだけプライドとシャレっ気を発揮して本機をごく少数製作、それを社員や関係者、および材料仕入れ先に記念品として謝意を込めて配布し、それをもって野球盤製作に永遠の別れを告げたのではなかろうか。

そう考えると、盤面に誇らしげに印刷された Sanei-Mokko の文字がすべてを物語っているように思えてならず、何やらそこはかとない切なさがこみ上げてくるのを禁じ得ない。

繰り返しになるが、以上は筆者の勝手な思い込みに基づく、部外者の無責任な推察に過ぎない。

ともあれ、本機は現存する唯一のSanei-Mokkoブランド野球盤である可能性が高い。
(2022.03.27追記:
別のコレクターの方も同ブランド野球盤を所持していることが明らかになったので、上記文中「唯一」を「唯二」に訂正する)

しかしそれ以上に、歴史の闇に埋もれた幻の野球盤を通じて、今や忘れ去られかけた戦後ニッポンのモノ作りに対する矜持の一端を、たとえ少しでもお感じいただければ幸いに思う。

20年以上も前に少しの間だけ取引のあった、とある木工製品会社直営店の店長の言葉が今も忘れられない。

「なんだかんだ言ってもね、やっぱり日本人はモノを作って売らなければダメだよ」

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